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広島高等裁判所岡山支部 昭和34年(ラ)6号 決定

抗告人 小川哲(仮氏)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、

抗告人の名は「哲」と書いて「サトシ」と読むものであるが、世人は右「哲」を正しく「サトシ」と読む者はなく、皆「テツ」と呼称しているのであるところ、抗告人の居住する同一部落内には、抗告人の氏名と同一の呼称発音を有する「小川鉄(てつ)」「小川悟史(さとし)」の二名があり、抗告人を含めて右三名を呼称するに到底その人別をすることは困難で、電報による場合にも区別はつかず、社会生活上甚しく支障があるから、抗告人の名を「哲吏」(テツシ)と改めたいのである。

というにある。

なるほど抗告状添付の戸籍抄本二通によれば、抗告人と同一部落に「小川鉄」「小川悟史」という氏名の者が居住していることを認めることができ、その氏名が抗告人の氏名の呼称である「小川サトシ」又は「小川テツ」とまぎらわしいものであることはこれを認めることができる。併し右二名の者の氏名は抗告人の氏名と全くの同姓同名であるという訳ではなく、単にその呼称発音が同一であるというに過ぎず、しかも同一部落内に同姓類似名の者がいる場合においても、その一方が改名するについて正当の事由があるとするには、類似の名の存するために、これらの者が社会生活上著しく差支えを生ずる場合であることを必要とすると解するところ、抗告人は昭和十八年生の男子であり、前記小川鉄は明治二十七年生の女性、小川悟史は昭和二十六年生の男子であつて、直ちに右両名と抗告人とが混同されて日常の社会生活上著しく差支えを生じているものとは認められない。このことは、最初に抗告人から提出された本件名の変更許可の申立書及び記録編綴の調査報告書によれば、抗告人がその名の変更を求める理由として主張しているところは、世人から「哲」を正しく「サトシ」と読まずして「テツ」と呼称されることが嫌いで、且一字名であるため第三国人とからかわれるからであるというのであつて、前記小川鉄、小川悟史の同姓類似名の者が同一部落内に居住している結果、日常甚しく差支えを生じている旨は何ら主張していないことからしても、これを推認することができる。

従つて、抗告人の名の変更は、戸籍法第百七条第二項に所謂正当な事由ある場合に該当しないものというべく、その許可の申立を却下した原審判は相当であつて、本件抗告は理由がない。

よつてこれを棄却すべきものとし、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 浅野猛人 裁判官 小川宜夫)

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